埋もれた名盤
           第5回

   
日本制作のアルバム
吉田昌弘
 第5回は日本制作のアルバムから今となっては珍しい盤を集めてみました。
日本再発盤、独自の編集盤、日本企画によるオリジナル盤、これらからは作られた時代の雰囲気が感じられます。
シローニアス・モンク「ブリリアント・コーナー」

 1960年代、野口久光、藤井肇、油井正一、植草甚一の四氏が選定するアルバムを「モダンジャズ名盤蒐集会」の名前でシリーズ化して、RIVERSIDE・レーベルも出ています。「ブリリアント・コーナー」はステレオ定価¥1700、モノラル¥1500でした。ジャケットの表面はオリジナルからのコピー、裏面は日本語の解説で、レーベルは青テープレコーダーのオリジナル盤に近いモノです。所謂マニアの言うペラジャケです。
 今回紹介するのはそれ以前に作られたアメリカン・ジャズ・シリーズで、シローニアス・モンクの「ブリリアント・コーナー」です。セロニアスではありません。これのシリーズが日本で初めてモンクの同アルバムを紹介しました。
レーベルはLONDONで、レコード番号はLC-1013と成っています。この一連のレコード番号にはLC-1012「ユニーク・シローニアス」が出されています。
まずジャケットはイギリス盤のそれを使っています。レーベルはイギリス・LONDON盤となって居ます。盤は180グラム両面深い溝入り、フラットディスクです。盤内周、A面にはAUL-702-10 DLB1002-1-1そしてB面にはAUL-703-10 DLB1003-4-1と刻印されています。
制作はキング・レコードでモノラル盤で定価は1700円です。
さて肝心の音ですが、「モダンジャズ名盤蒐集会」のペラジャケとは明らかに違い、音の抜けが良いです。80年代のVIJ重要盤よりも音に張りがあります。最上質のオリジナル盤と全く同じ音です。
これはスタンパー(オス形)をイギリスより直輸入してプレスしたのでしょう。制作年代はリアルタイムに近い50年代末期かもしれません。

 

 

サッチモ・イン・ジャパン/DECCA

 

 1963年.2度目の来日を記念してテイチクより作られた「サッチモ・イン・ジャパン」レコード番号JDL-5081と云うLPが今手元に有ります。
ジャケット裏面のライナーノーツには、「・・・このLPは1963年来日公演のルイ・アームストロング・コンサートで演奏された曲目を編集したもので、彼の熱狂のコンサートを再び思い起こさせます。」(LP.JDL-5081より抜粋)
しかし、内容は日本公演の時の録音ではないのです。
かつてアメリカで録音〜発売されたモノを抜粋編集して一枚のLPにまとめています。「コンサートで演奏された曲目」と謳って居る処がミソで、日本公演の曲目であれば言葉の上では嘘には成らないかもしれません。
しかし、このタイトルとライナーノーツの説明からは「日本公演・ライブ版」と感じます。その様に感じさせ、購入させようと云う意図が見えます。
当時のレコード会社は日本公演をアルバム化する力が無かったのでしょうか。 演奏のバンド名を詳細に読み込めば来日のバンドと違い「変だ!」と気付きます。
以下に曲目と演奏楽団を記します。
  A1. アイ・ゲット・アイディアズ   ルイ・アームストロングとサイ・オリバー指揮楽団
A2.ブルーベリー・ヒル   ルイ・アームストロングとゴードン・ジェンキンス楽団
A3.キッス・オブ・ファイア   ルイ・アームストロング楽団
A4.スリーピー・タイム・ダウン・サウス  ルイ・アームストロング楽団 
A5.インディアナ   ルイ・アームストロングとオール・スター
A6.マスクラット・ランブル   ルイ・アームストロングとオール・スター
B1.ハイ・ソサエティー  ルイ・アームストロングとオール
B2.セ・シ・ボン   ルイ・アームストロング楽団
B3.ガット・バッケット・ブルース   ルイ・アームストロングとオール・スター
B4.セント・スイス・ブルース   ルイ・アームストロングとオール・スター
B5.ディッパー・マウス・ブルース   ルイ・アームストロングとジミー・ドーシー楽団
B6.聖者の行進   ルイ・アームストロング楽団

JAZZ BY SUN RA/Transition
 Transitionレーベルといえばレコード・コレクターで知らない者はいないと云う程の重量級幻のレーベルです、それを今更と思うでしょう。
紹介するのは日本盤・トリオ制作の「JAZZ BY SUN RA」です。
トリオがプレスしたTransition盤はこの一枚しか見ていません。
ジャケット右上にPA-7006とトリオのレコード番号が印刷されています。
裏面左端にはオリジナル・ジャケットと同じ「←ALBUM NOTES INSIDE」とプリントされたシールが貼られ、ジャケットを開けると中にはザラ紙中綴じの20ページの小冊子が付いて居りオリジナルに忠実な作りです。
後年2度程東芝よりTransitionの一部が再発されています。見比べますと、東芝の再発盤は小冊子が付いておりません。盤面を見ますとレーベルの地色と文字が同化して見にくいですが、このトリオ盤は金色が鮮やかでハッキリしています。ただレーベルが紙ではなく、ビニールに印刷と云うのは時代を考えると致し方ないでしょう。
 Transitionレーベルに付いて一言つけたします。
20代の若き黒人のジャズ愛好家TOM WILSONはハバード大を卒業その翌年の1955年レーベルを設立します。55年から56年の間、イーストコーストの若き精鋭達を発掘、自らプロデュースしてデビュー・アルバム等をLPレコード化して発売して行きます。そして58年には資金難から幕を閉じました。
録音した作品群のどれもが新しい時代をこれから切り開いて行こうと云う意気込みと先駆的内容で熱気が漲る意欲作ばかりです。
なかでもこの「JAZZ BY SUN RA」とC.TAYLOR「JAZZ ADVANCE」.LOUIS SMITHの「HERE COMES」の3枚は特筆すべきものです。
トム.ウイルソンはレーベルは閉鎖後「HERE COMES」をBLUE NOTEより(#1584)出し、自らはUAレーベルへ入り、セシル.テイラーの「LOVE FOR SASLE」「HARD DRAIVING JAZZ」「STEREO DRAIVING JAZZ」を出しています。
今ジャズ喫茶をやっているますが、若い頃は生意気にもこのレーベルのLPが有るか無いかでジャズ喫茶に優劣を付けていた事を思い出します。


冊子とジャケット裏面
FREDDIE REDD TRIOレコード番号CHUMEP-1000。

LP盤

 フレディー・レッドのりリーダー・アルバムはFUTURA、BLUE NOTE、RIVERSIDEの各一枚と「コネクション」位で極端にアルバムの少ない人です。
このアルバムは都内の廃盤専門店より80年代にだされたものです。
原版はスゥェーデン・メトロノーム盤のEP3枚です。
メンバーFreddie Redd(p) Tommy Potter(b) Joe Harris'(ds)で1956年9月5.6.7.18日の4日間に渡ってストックフォルムで録音されました。
それを30センチLP1枚にまとめたモノがこのアルバムです。
発売当時これを勝手に作った海賊版と言うコレクターも居ましたが、JASRASの認証番号R-140065を得ています。
このアルバムの内容は申し分の無い素晴らしい演奏です。
1曲目「DOWN MIST」2曲目「BEAUTIFUL ADELA」などは「コネクション」へと繋がって行く曲想です。
一小節聴いただけで彼と分かる音で、序々に盛り上げて行く甘い感触は好みの分かれる処でしょう。私は分裂気質を思わせる破綻が好きです。
ジャケットはEP盤の一枚を拡大して作っています。EP盤の他のジャケットも気になる処ですが、偶然それをお持ちのコレクターT氏よりお借り出来ましたので紹介いたします。


EP盤

ELVIN JONES/VERY RARE/TRIO
  このアルバムはヴァンゲルダー本の依頼があって彼の録音LP盤を探している過程でKJFCのT氏から存在を教えられお借りしました。ヴァンゲルダー・スタジオにて録音からマスターリング、スタンパーまでの作業が行われた唯一の日本盤LPです。
1979年6月録音、日本のレーベルトリオにより45回転高音質LPレコードとして発売されたアルバムです。LP盤内周にはMASTER BY VAN GELDERと刻印されています。またヴァンゲルダーとアート.ペッパーの関わりでは「SURF RIDE」(SAVOY)がありますが、それはマスタリングのみで、録音から仕上げまでをヴァンゲルダーと云うのはこのアルバムだけだと思います。
このアルバムの制作からまもなくして、トリオは事業を縮小しレコード制作を中止、アルバムも市場から撤収してしまいます。そんな経緯から本アルバムは長らく再発される事も無く、中古盤市場でも余り見かけませんでした。
ちなみにアルバムタイトルのRAREとは、4人のプレイヤー、Richard Davis, Art Pepper, Roland Hana, Elvin Jones の名前のモノグラムです。

恫いん KENNY DREW MEETS RED MITCHELL AT 歪珠亭

 1982年4月25日、ジャズ・スポット・歪珠亭(埼玉県浦和)にて。
この10年程後に押し寄せるバブル好景気は人を駄目にしたと思います。
ケニー・ドリューのピアノ・トリオでアルバムを作れば女性に受ると云う論理から、上品で清潔感溢れる水彩画のジャケットのアルバムが日本企画で続けて出されました。彼の73年Steeple ChaseのDUO以降は全体に上品にまとまり、それがレコード会社のサラリーマン・プロデューサーをして女性受けするピアノと捉えられたのでしょう。ここにはパッションの欠片すら無く、企画書の上で他人を説得しやすい数字の世界です。
私はこの一連の中に名演が有っても今ひとつ買う気が起きません。

ここで紹介するアルバムは埼玉県浦和の「歪珠亭」で行われた自主制作のアルバムです。個人の思いが強く反映されている点が救いです。
私はこの店を知りませんがワインとフランス料理が似合いそうな処の様です。
コンセプトは天と地、KENNY DREW meets RED MITCHELL の出会いがこの日歪珠亭の恫・空間で作った音を気品に満ちたアルバムにする事にあった様です。
私個人としては気品よりも情熱を求めたいところです。

 

 

 
<このページのトップへ戻る>