故郷の風景は路地の奥
表通りの足音は 影に吸い込まれていく
下町の風情は 二層に分かれ
底は 幾すじもの路地が走る
見世物小屋や番外地
その上に
お土産屋と神輿が腰をおろす
(入口からは何も見えない
入口は何もみせない) 公園の裏口から駄菓子屋へ
ふくらはぎは友達の顔
もし、故郷の風景が人間をつくるのだとすれば
湿り気をおびた路地裏をふく風で
私はできている
故郷を後にして十五年の間
匂いのない乾いた風の服をまとって
いつからか処世術を学んでいた
タンスの奥では除湿剤が その取替え時期をとっくに越して
たぷたぷしていた
もう 戻れない もう 戻らない
閉ざされた入口をこじあける道具もない
けれど
痛い目にあった時
圧力におしつぶされそうになった時
放浪をつづける足がふらり 立ち止まった時
思い出すのは いつでも故郷の風景だ
封印を解いた故郷の風は
根っこまで
落としてきた根っこのまわりを
決して腐ることのないよう吹きつづけている
その音は
「お前の根っこはここにある
お前はそれをおぼえているだけでいい」
そう 強くやさしい声だった