第7回

安田倫子
カノンカノン
1、くもりのち
 
 
ぶあつい雲にいつか穴があいて
ここだけには光が差し込むんじゃないか
そんな夢を見つづけている夢
夢の中ではいつも曇天がつづく
やわらかい地面に降り積もることもないまま
浮かびあがっては沈んでいく
闇の中を浮遊している見えない塵
ネオンは必要以上のワット数で放熱をつづけ
暗闇を厚く塗りかためていく
連続する記号と数字の組み合わせが
自動的に並べ替えられていく

埋立地の上の遮断機の向こう側に光る水面の先に
覚めない夢を見つづけながら
はみだしたはずのこの巨大な夢の塵のひとつとなって
闇の中を循環している
隣で寝息をたてる見知らぬ男の唇をつまんでみても
この夢から覚めることはない
時間が放射状にのびていくのが見える
どこまでもどこまでものびていくので
目を背けてしまう

読点でつづられていく物語
追尾する物語に句点は打たれない
不安定に重なりながら不確定な行く先へ
読点だけをたよりに
間延びし続けるまばたきの隙間に
投影される影絵のようにぼやける輪郭
まぶたの裏に映し出されるのは黒い余白
その暗幕に吸い付く塵
それでも雲のむこうにあるといわれる夜明けを待っている
どこまでものびつづける幾層にも塗りかためられた硬い闇と
うずもれてしまいそうなやわらかい地面の間で
夜光性の塵が 時よりぱちぱちと静電気を放っている音が聞こえる


 
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