第8回

安田倫子
ライン
 
 
のびていくうす曇り
いつも遠くで明るいのが気掛かりなのですが
交差点は駅の音を飲み込んでしまい
弧を描くホームを電車が通過していきます
反射する白線を踏まないよう
私も斜めに傾きながら横断歩道を渡ります
誰かがまた盲人用のボタンを押しました
太陽がまた遠のいたようです
買ってきたばかりの缶ビール
冷蔵庫の上にどうしても手が届かないのです
台所でやかんがクスクスしだしたのにもやはり
部屋にはいくつか刃物がありました
錆びた茶色を静かになぞりながら
丸くなった私の体は人事のように震えています
誰かからの電話をわずかに期待しました
知らない私はふいに訪れるのです


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