リレーエッセイ・猫         第5回

   
その後の「オイ」
  猫 ママ

「オイ」は数多のフリージャズを子守歌にしてすくすくと育つています。無事3歳となり、今は体重5kg身長50cm、抱くと持ち余りする大きさになりました。
猫の一年は人間の五年分に値すると云いますが「オイ」も例外ではなく、この一年の成長は驚かされる事の連続でした。
初めての子育てを体験するが如く、楽しいこと、悲しいこと、胸が締め付けられる苦しみも味わいました。
 

 


昨年の春、花の芽吹きと同時に「オイ」に初めての発情期がやって来ました。
三日も帰ってこなく心配で近所を探しに行くと、
居ました!!よそ様の塀の上に!!それもキジトラのメスと連れだって。
しばらくして、"ワオーワオ"と雄叫びを上げて戻ってきたと思ったら、「メシくれー」と叫び声で催促し猫缶ひと缶掻き込むように食べ散らかして
今度は、「ドア開けろー」と叫んで、矢のように飛び出して行ってしまいました。

しばらくして、初戦が負け戦だったようで、顔から肩に掛けて、深い傷を負ってしまった。あまりにも痛々しい傷口を見るに忍びなく、病院行きに。
帰ってきた「オイ」にまたまた驚かされた。左反面バリカンで毛を刈り取られて、白い皮膚が丸見えで、それまでの元気はどこへやら、立派なシッポも項垂れて悲しい姿に。
その時期が通りすぎると、
今までのヤンチャはどこへやら甘ったれの「オイ」に逆もどり。
あきれるやら、おもしろいやで、楽しい発見の日々でした。
 

白山神社から当店までのトライアングルはノラ猫達の生活圏で、シロやら、クロやら、ブチが顔を見せます。
その中の一匹に全身真っ黒で首の内側に一筋はけで塗ったように白の毛が見えるノラがいました。ノラ歴何年というつわもので精悍な顔に似合わないまん丸の目がなんとも印象的な猫でした。
その瞳にほだされてエサをやったのが悪かった。
縄張り意識からか「オイ」の喧嘩相手になってしまった。ある時などは、店の前でお互いの首根っこに噛み付いてサッカーボールのように転げ回っていた。
心臓が飛び出る位びっくりした。


猫パパの店主は、「オイ」の喧嘩にも手を出して、クロがくると威嚇するように睨み付ける。ある日、いつものように、「オイ」とクロがフウウと低い声を上げて掴みかからんばかりに睨み合っていた。そこに猫パパが顔を出したものだから、クロは、スタコラと逃げ出して行った。「オイ」もすごい勢いで追いかけていく。
暫くして、意気揚々と帰ってきた。なにを感違えしたのか勝利の雄叫びを上げている。シッポを3倍ぐらいに脹らませてまるでコップを洗うブラシのようになっている。「オイ」も少年期に終わりを告げ、雄々しい?青年期に入ったようだ。

 

クロは日増しに鋭さを増し日々戦いの中にあった。おでこは、引っ掻き傷でガリガリに成り、毛艶も失せていった。表に出してある「オイ」のエサを引ったくるように掻き込むと悠然と帰っていく。そんなある日、深い傷を負ったクロがよろめくようにやってきた。店主が追い払おうとしても店の前で踞っている。よく見ると片目が潰れているようだ。暫くして路地に消えていった。その日以来クロの姿は見なくなった。一膳の礼に来たのかと胸が熱くなった。別れの挨拶までもが孤高の戦士であったクロに心の中で手を合わせた。


「オイ」は女の子にもてる。「かわい〜い」とスリスリされたりぎゅつと抱きしめられたり、店主がやきもちを妬くほどである。そして驚かされるのはガールフレンド(もちろん猫です)の方から「オイ」に会いにやって来ることである。ドアの前で「オイ」が出てくるのをじっと待っている。なんと幸せ者のことであるか。最初キジトラのメスが訪ねて来たときは本当にびっくりしたが今ではなれた。そうなると気になるのが相手の美醜である。エリザベス・テーラーとは言わないがせめてもうすこしどうにかならないのと「オイ」に説教するのだが我関せず、ただミヤァと鳴くだけである。「オイ」の今最大の関心はこのシロ猫であるらしい。今度は猫ジジと猫ババになってマゴの面倒を見ることになるのかと気を揉むこの頃である。

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