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Jazz.Hot.Society. |
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LADY DAY/THE
COMPLETE BILLIE HOLIDAY ON COLUMBIA 1933-1944
(Columbia/Legacy CXK 85470)に関する考察
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大和 明
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“レディ・デイ”こと、ビリー・ホリデイの初期の録音であるColumbia、Brunswick、Vocalion原盤をこれまでに存在が確認されているすべてのテイクを集め、さらにデューク・エリントン楽団、カウント・ベイシー楽団、ベニー・グッドマン楽団、ジ・オール・スター・バンド(エスクヮイヤ・オール・アメリカン・オール・スターズ)とのフィルム・サウンドトラックやエアー・チェック、コンサート録音も加えて2001年に発売された表記タイトルの全10枚組CDは内容、収録音質も含め、それまで色々な形で発売されていた初期のビリーのColumbia系録音の決定盤として大方の絶賛を得た。
実はこのCDにはこれまで指摘されなかった重大な欠陥がある。この10枚組CDセットが表題のごとくTHE COMPLETEと銘打つからには、別テイクも完全収録されていなければならないが、理解できない脱落があるので指摘しておきたい。それに解説書の中に記載されているディスコグラフィにもいくつかの間違いや疑問が指摘できるので、それらについてここに記しておきたいと思う。
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この10枚組CDセットには正規のルートで発売(米国をはじめとする世界各地のColumbia系の会社やColumbiaの権利を買収した日本のSonyなどが発売したLPやCD)された録音だけでなく、Two
Flats DiscやQueen-Disc(共にイタリア盤LP)、Meritt(米国盤LP)、Jazz Unlimited(スウェーデン盤CD)など私家盤・海賊盤的なもので発売となった未発表の別テイク録音なども網羅して収録されているうえ、これまで私家盤・海賊盤などでも発売されたことのないと思われる真の未発表テイクも収録するなど確かに凝った編集でコレクター諸氏を狂喜させた功績は認めるに吝(やぶさ)かでない。だがその一方でとんでもない収録漏れをしているのは、錚々たる識者やコレクターが監修責任者や協力賛助者として名を連ねているだけに解せないのである。
まず一番の問題点である色々なレーベルで既に発売済みの別テイクであるにもかかわらず、このコンプリート・セットに収録されていない録音を以下に指摘しておこう。 |
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(1) 20507-1 I've Got My Love to Keep Me Warm
(2) 28619 The Same Old Story (incomplete)
(3) 29987-3 Let's Do It (incomplete)
(4) 29988 Geogia on My Mind (incomplete)
(5) 31004-cut Love Me or Leave Me(incomplete)
(6) 31004-breakdown Love Me or Leave Me(incomplete)
(7) 31005-3 Gloomy Sunday
(8) 31005-breakdown Gloomy Sunday(incomplete)
(9) 32406-cut Mandy is Two(incomplete)
(10) 32407-cut It's a Sin to Tell a Lie(incomplete)
(11) 32408-1/2 Until the Real Thing Comes Along(incomplete)
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米Columbia.C3L-40
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以上のように11曲も収録漏れがあるのだ。そのうちの何曲かは不完全録音であるが、だから収録しなかったという理由にはならない。なぜなら不完全録音の30458-3
God Bless the Child (incomplete) は収録されていたからである。また(11)は接合テイクなので収録しなかったという理由を認めるとしても、次の2曲に関してはどう考えてもミスとしか思えない。(1)はBILLIE
HOLIDAY / THE GOLDEN YEARS VOL.2 (米Columbia C3L-40)、(7)はBILLIE HOLIDAY
/ GOD BLESS THE CHILD (米Columbia G-30782)というLPですでに10枚組CDの発売元と同じ米国Columbiaレーベルから以前に発売されていただけに、言い逃れできない大きなミスと言わざるを得ない。ただしこれまでどのレーベルからも発売されていなかったと思われる録音の22923-1
If I Were Youと22924-1 Forget If You Canが収録されているのは新発見のテイク(この10枚組CDの発売以前のいかなるディスコグラフィにも記載されていなかった)だけに大きな成果と言えよう。
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米Columbia.G 30782
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次に付録冊子に記載されているディスコグラフィに関する疑問であるが、これに関しては筆者の方でもまだ結論が出ていないものもあるので、完全な間違いと思われるものと有力な異説があるもののいくつかを録音順に指摘するにとどめておこう。
まずビリーの初録音(Columbia)である1933年11月27日のベニー・グッドマン楽団での伴奏ピアニストが近年の説によってBack
Washingtonになっているのは良いとして、セカンド録音の同年12月18日のピアニストまで同人としているのは疑問で、これは従来通りJoe
Sullivanとするのが妥当のように思う。
次にビリーがデューク・エリントンによる短編音楽映画の“Symphony in Black”に出演した時の録音を1935年3月12日としているが、演奏を録音したのは1934年12月で、その音に合わせて撮影されたのが翌年の3月12日という有力な説があるので、一般的な音楽場面の撮影方法から考えても1934年12月録音というのが順当ではないだろうか。
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伊Queen Disk Q065
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続いては1938年5月11日のビリー・ホリデイ楽団の録音(Vocalion)であるが、ギター奏者が参加していることになっているにもかかわらず、いくら聴いてもどの曲からもギターの音を聴き取ることは出来ない。次の同年6月23日の録音(Vocalion)でも全曲にギター奏者が参加していることになっているが、<I'm
Gonna Lock My Heart>だけに参加というのが正しいように思う。またこの両セッションともメンバーに異説があるが、その結論は今後の研究課題としておこう。
1938年11月28日のテディ・ウイルソン楽団の録音(Brunswick)であるが、<Hello,My Darling>でクラリネットが参加しているのを聴き取れる。そのことが記されていないが、恐らくToots
Mondelloがアルト・サックスと共に兼任していたと思われるので、Toots Mondello (as,cl)と記載するのが正しいように思う。また<Iユve
Got a Date with a Dream>の別テイクの方を23469-2と記載しているが、オリジナル・テイクの方も同じ記載をしているので、これは233469-1とするところを単なる記載ミスでテイク2と印刷してしまったのであろう。
さてディスコグラフィカル・データに関する最後の疑問はこの10枚組CDの最後に3曲収録されているエスクヮイヤ・オール・アメリカン・ジャズ・コンサート(メトロポリタン・オペラ・ハウス・ジャム・セッション)の日付である。これを1944年1月26日としているが
1月18日というのが一般的な見解である。確かにかつては1月26日という日付を採用していたディスコグラフィもあったが、現在ではほとんどのディスコグラフィが1月18日説を採用しているし、このコンサートを主催したESQUIRE誌
(1945年版)の中に掲載されている“Jazz Scene:1944 / EVENTS OF THE YEAR”(Compiled
by Paul Eduard Miller)にもはっきりと“Concert at the Metropolitan Opera House
in New York,Jan.18,by Esquire Magazine's All-American Jazz Band,selected
by a board of 16 experts on jazz
music.”と書いてあるので、1月18日が正解であると断言して良いように思う。それだけにことさら1月26日説を蒸し返した理由が分からない。
以上、この10枚組CDの問題点をあげたが、もし我が国でこれを発売する機会があれば、その節は是非真の意味でのComplete編集盤に仕立て直してもらいたいものである。
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瑞JAZZ UNLIMTED JUCD 2015
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[番外編]
Jazz Unlimited(瑞 JUCD2014 / CDの5曲目)に収録されている(2)は最後の2小節を歌い残してビリーが咳き込んでしまい録音を中断している不完全テイクであるが、“BILLIE
HOLIDAY / THE GOLDEN YEARS VOL.2 "(米Columbia C3L-40 &
日CBS SL-1229〜31-C)、および10枚組CDの9-19に収録されている同曲の完全テイク(10枚組CDの解説書にはmx28619-3と母盤・テイク番号が記載されている)とは咳き込む直前までまったく同じ録音である。それだけに、米Columbia
C3L-40に収録されたテイクは最後の部分を他のテイクと接合して完全テイクにしたようにも受け取れるが、JAZZ UNLIMITEDに収録された不完全テイクには疑問点もある。それはビリーの歌が途絶え、その直後に咳き込む声が入るのだが、歌が途絶えるのと同時に伴奏のアンサンブルも咳き込む声が入る前に途絶えてしまうというのはどう考えても不自然である。もしかするとJAZZ
UNLIMITED盤の不完全テイクは人工的に作成したいんちきテイクという可能性もある。そこで同曲のテイク1(master take)、テイク2
(10枚組CDの9-18にテイク2と記載。JAZZ UNLIMITED盤の7曲目に収録された同曲には28619-Xと記されている。なおコレクター用の会員向けLPである
"JAZZ POTPOURRI Vol.3 " 米Meritt 25 における母盤番号-テイク番号の記載はMx28619-2nd
tryとなっている)、テイク3 ( 3枚組LPの米Columbia C3L40、および10枚組CDの9-19)を聴き比べた結果、とりあえず次のような結論を出してみた。
The Same Old Story (mx28619-1 / master take)
米OKeh 5806(78回転SP盤)、瑞Jazz Unlimited JUCD2014の8曲目、10枚組 CDの6-19(6枚目の19曲目)、
The Same Old Story (mx28619-2 / alternate take)
米Meritte 25、瑞Jazz Unlimited JUCD2014の7曲目、10枚組CDの9-18、
The Same Old Story (mx28619-3 / alternate take)
米Columbia C3L-40、瑞Jazz
Unlimited JUCDの6曲目、
10枚組CDの9-19、
The Same Old Story (mx28619-咳き込み中断テイク)
瑞Jazz Unlimited JUCD2014の5曲目(テ イク3の人工的中断によるいんちき録音)
同じような中断テイクに(4)があるが、これは中間のピアノ・ソロが終わる直前にプツンと切れてしまい、その後に続くサビ以降のビリーのヴォーカルが入っていない録音である。“BILLIE
HOLIDAY / rare and unissued recordings the golden years vol.2”(仏Queen
Disc Q065)にはこの不完全テイク(このアルバムの記載では29988-3 / previously unissued
alternate takeとなっている)と共に完全テイク(29988-4 / previously unissued alternate
takeと記されている)も収録されている。だが聴き比べた結果、これも中断する箇所までまったくの同じテイクであり、中断箇所が不自然なので、恐らくThe
Same Old Storyの中断テイクと同じように故意に中断させたテイクを作成し、未発表テイクのように偽って収録したものと判断する。
(大和 明)
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米 MERITT 25
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瑞JAZZ UNLIMTED JUCD 2014
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